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名古屋高等裁判所 昭和25年(う)1413号 判決

被告人

小田切幸喬

主文

本件控訴は之を棄却する。

当審に於ける訴訟費用(国選弁護人支給分)は被告人の負担とする。

理由

弁護人野村均一の控訴趣意について。

依つて按ずるに、原審引用挙示の各証拠に依れば、昭和二十四年四月四日午前〇時五十分頃から同二時頃迄の間に岐阜縣多治見市豊岡町一丁目水野寬がその所有に係る新品自転車一輛(鑑札番号四八二〇)を何物かに窃取せられたこと並びに同月三日午後十一時頃から同四日午前六時頃迄の間に同市高田町五丁目二千百三十六番地加藤芳郎がその所有に係る煙草ミノリ外六種の煙草約二百五十個をバスケツトに入れたまま何人かに窃取せられたこと及び同月(四日)午前七時三十分頃被告人が岐阜縣可児郡今渡町下恵土自転車修理業鈴木文一方に於て自ら右自転車を解体していたが、その際被告人は右バスケツト入りの煙草と同種の煙草百四十一個を所持していたことを認めるに充分である。依つて按ずるに凡そ盜難に罹る物件を所持する場合に於ては反証なき限り、該所持人が之を窃取したものと推定せられることは止むを得ないところであつて、この一事のみによつても被告人を窃盜罪に問擬することは敢て違法ではないが更に進んで審究するに、司法警察員作成の被告人に対する各供述調書の記載によれば、被告人は右自転車及び煙草は居所不明の実兄から貰つた物であると弁疏していたところ、その後右供述を変更して右自転車及び煙草は広見駅から約二丁位行つた汽車のガードの下で氏名不詳の者から代金一万二千円で買受けたのであると供述するに至り、原審に於てもこの供述を維持しているのであるが、この点につき被告人は「毛布生地の安いのを買うため昭和二十五年四月三日の朝東京を出発し、翌四日午前四時頃名古屋に到着し、直ちに中央線で多治見駅に来り、更に太田行の一番列車で、午前六時三十分頃広見駅に下車し、前記ガードの下で毛布が無かつたので自転車と煙草を買つたのである」と弁疏するのであるが、翻つて原審引用挙示の加藤つるゑ、田上晃、坂崎静実、鈴木文一の各供述調書の記載によると被告人は右一番列車の到着前既に犯行現場、広見駅附近を俳徊していた証拠が歴然としているので被告人の右弁疏は到底之を措信することができない。のみならず前記の通り被告人が従来の供述を根本的に変更した態度、その供述内容の頗る不合理な点等を綜合考察すると、被告人がその所持した自転車及び煙草等を窃取したものであるという推定は殆んど動かないものといわなければならない。従つて被告人が無罪であるという論旨は何れも理由が無い。

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